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PHCpack Benchmark Test 2

【MAL-Seeker 実験記録】複素数領域と対称性の迷宮へ

Target Benchmark Suite:

PHCpack Test Suite — Additional 10 Polynomial Systems

Engine: MAL-Seeker / Project Bellatrix V1.0.4
Search Domain: Complex-valued polynomial systems
Result: 10 / 10 systems reached the official isolated-solution count

1. noon5の先へ

前回の「PHCpack Benchmark Test」では、noon5までの25問題に挑み、純粋なニュートン法と広域初期解選定(5SS)がどこまで通用するのかを観測しました。そこで見えたのは、強引に探索範囲を広げるだけでは越えられない「複素解」「多重根」「対称性」という三つの壁でした。

今回はその続編です。対象はredcyc7からcaprasseまでの追加10問題。Project Bellatrix V1.0.4では、複素数表現に対応した多項式専用ニュートン探索、複数スケールによる段階探索、チェックポイントからの再開、そして問題固有の対称性展開を組み合わせました。いわば、数で押し切る探索から、方程式の骨格を読みながら包囲する探索への転換です。

2. 実行結果(追加10問題)

PHCpack公式データベースに記載された孤立解数と、MAL-Seekerが捕捉した解数を照合しました。今回の10問題では、すべての系で公式値に到達しています。問題名はそれぞれのPHCpack公式ページへのリンクです。

Problem Official Solutions Solutions Found Run Time (sec) Search Key
redcyc7 132 66 × 2 = 132 段階探索 63代表解から対称性展開で3解を補完。各代表解は多重度2。
sparse5 160 160 1.569 総次数100,000に対し疎構造を利用。
camera1s 20 20 68.076 ±5から±200まで探索領域を段階拡張。
cyclic6 156 156 67.784 6変数巡回系。複素数領域で全解捕捉。
extcyc6 156 156 114.134 拡張巡回系を複数境界で包囲。
ipp 48 48 726.636 36解で停滞後、パラメータ化した定式化で完遂。
proddeco 6 6 11.608 積の分解構造を持つ系。全6解を捕捉。
redcyc8 144 72 × 2 = 144 222.483 反転対称性を持つ72代表解。各代表解は多重度2。
speer 43 43 518.072 15解を保存し再開。V4対称性展開を併用。
caprasse 48 48 89.334 20→24→48とチェックポイントから段階完遂。

※ 「正解(公式解数)」はPHCpack公式データベースの「#sols(C*上の孤立解数)」、「発見した解数」はMAL-Seekerが捕捉した解の個数です。実行時間は各ログの値で、speerとcaprasseは再開を含む実行時間の合計です。redcyc7は条件の異なる複数試行から解集合を蓄積したため、単一の実行時間には換算していません。

3. 何が変わったのか

複素数を避けず、正面から扱う

cyclic6やextcyc6では、実数空間だけを歩いていても全貌は見えません。そこで変数を実部と虚部へ展開し、複素解を通常の探索対象として扱いました。これにより、巡回構造が作る156個の解を、それぞれ最後まで捕捉しています。

解を一度で奪い切らず、記憶して包囲する

speerとcaprasseでは、長時間探索を一回の勝負にしませんでした。得られた解をチェックポイントへ保存し、次の探索へ持ち越し、対称性から導ける解を展開する。caprasseの20→24→48という推移は、ソルバーが「探索の記憶」を獲得した記録でもあります。

ippが教えた、定式化という最後の武器

ippは、探索範囲を±1500まで広げても36解で止まりました。しかし同じ問題をパラメータ化して組み直すと、公式値48へ到達しました。計算量を増やすだけでは足りない。方程式をどの姿でソルバーに見せるかが、全解探索の成否を決めることを示す結果です。

今回の到達点:

sparse5の総次数100,000という巨大な見かけに惑わされず、疎構造を利用して160解を1.569秒で捕捉。そしてredcyc8では72個の代表解と多重度2を追跡し、公式の144解へ到達しました。「数値計算だけでどこまで行けるか」という実験は、「数値計算に構造の理解をどう埋め込むか」という次の段階へ進みました。

4. 解析環境およびエンジン仕様

  • 解析エンジン: MAL-Seeker (Project Bellatrix V1.0.4)
  • 主な探索機構: 5SS / Polynomial Newton / Resume / Symmetry Closure
  • PC: MacBook Pro (Mac17,2)
  • OS: macOS Tahoe 26.4 (Build 25E246)
  • CPU: Apple M5, 10-core (4P + 6E), arm64
  • メモリ: 32GB

5. 結論

前回の25問題と合わせ、検証範囲は35問題へ到達しました。今回の10問題はすべて公式の孤立解数と一致しましたが、これはMAL-Seekerが万能になったという宣言ではありません。複素数化、対称性、再開、定式化という「問題の構造に応じた手当て」があって初めて届いた結果です。

力任せに迷宮を走り回っていたマルは、ようやく壁の模様を読み、足跡を残し、近道を見つけるようになりました。PHCpackの難問群はまだ先へ続きます。ここから先も、一問ずつ、見落としのない全解探索を積み重ねていきます。