PHCpack Benchmark Test 3
【MAL-Seeker 実験記録】主要80問題、その最初の一巡
Target Benchmark Suite:
Range: cyclic7 — rose
Result: 45 / 45 systems reached the official isolated-solution count
Milestone: One complete pass through the 80-system main collection
1. roseへ到達するまで
第一報ではboonからnoon5までの25問題、第二報ではredcyc7からcaprasseまでの10問題を記録しました。そして今回、caprasseの次に並ぶcyclic7から、PHCpack公式データベースの主要コレクション末尾に置かれたroseまで、残る45問題の検証が完了しました。
ここで重要なのは、同じ解法を45回繰り返したのではないという点です。序盤の多段再開探索、中盤の問題削減と非飽和化、終盤の総次数ホモトピー、多斉次ホモトピー、変数スケーリング。問題ごとに異なる構造を読み取り、必要な道具を一つずつMAL-Seekerへ組み込んできました。
2. 巨大巡回系の突破 — cyclic7からkatsura5
最初の10問題では、924解を持つ7次巡回系と、1,152解を持つ8次巡回系が立ちはだかりました。チェックポイントへ解集合を保存し、探索領域を広げながら不足分だけを追うことで、長時間探索を「続きから始められる計算」へ変えています。
| Problem | Official Solutions | Solutions Found | Run Time (sec) | Method / Note |
|---|---|---|---|---|
| cyclic7 | 924 | 924 | 7,476.584* | 560→658→728→854→924。再開探索+巡回対称性。 |
| extcyc7 | 924 | 924 | 2,917.936* | 868解から再開し、残る56解を補完。 |
| ipp2 | 16 | 16 | 49.350 | 11変数の6R逆位置問題を複素探索。 |
| puma | 16 | 16 | 0.073 | PUMAロボットの位置・姿勢問題。 |
| redeco5 | 8 | 8 | 0.098 | 縮約された5次元経済モデル。 |
| trinks | 10 | 10 | 0.092 | PoSSoテスト系を全解捕捉。 |
| cassou | 16 | 16 | 90.610 | Cassou-Noguès系を複数境界で探索。 |
| cyclic8 | 1,152 | 1,152 | 367.001 | 巡回対称性展開を用いて全解捕捉。 |
| extcyc8 | 1,152 | 1,152 | 2,907.289* | 1,120解から極端領域を再探索し32解を補完。 |
| katsura5 | 32 | 32 | 12.189 | 磁性モデルの32解を複素領域で捕捉。 |
* 再開に使用した連続した探索ステージの実行時間を合算しています。
3. 方程式の形を変えて勝つ — quadfor2からrabmo
次の15問題では、力任せの初期値探索よりも定式化が主役になりました。des18_3は縮約と総次数ホモトピー、fbrfive4は非飽和化、kinemaは多斉次構造の利用によって公式解数へ到達しています。
| Problem | Official Solutions | Solutions Found | Run Time (sec) | Method / Note |
|---|---|---|---|---|
| quadfor2 | 2 | 2 | 0.014 | 2代表解を捕捉。多重度込みでは4。 |
| redeco6 | 16 | 16 | 4.793 | 縮約された6次元経済モデル。 |
| virasoro | 200 | 200 | 1.241 | Virasoro代数構成系の200解。 |
| chemequ | 16 | 16 | 12.040 | 炭化水素燃焼の化学平衡。 |
| d1 | 48 | 48 | 44.519 | 12変数の疎なD1ベンチマーク。 |
| fbrfive12 | 36 | 36 | 81.811 | 5点を通る4節リンク機構。 |
| kin1 | 48 | 48 | 41.399 | 12変数の機構学問題。 |
| quadgrid | 5 | 5 | 21.462 | 格子上関数の補間求積公式。 |
| redeco7 | 32 | 32 | 29.949 | 縮約された7次元経済モデル。 |
| wood | 9 | 9 | 1.345 | Wood関数の最適化から導かれる系。 |
| chemequs | 16 | 16 | 2.262 | スケール化された化学平衡系。 |
| des18_3 | 46 | 46 | 0.155 | 縮約+総次数ホモトピー。 |
| fbrfive4 | 36 | 36 | 0.208 | 非飽和化+多斉次ホモトピー。 |
| kinema | 40 | 40 | 45.183 | 3群の多斉次構造を利用。 |
| rabmo | 16 | 16 | 0.680 | 多次元最適求積公式。 |
4. スケーリングとホモトピー — redeco8からrose
最後の20問題では、総次数ホモトピーと多斉次ホモトピーが探索の中核へ入りました。特にcohn2、cohn3、discret3では、そのままでは少数の解しか見えなかった系をスケーリングし、経路追跡へ渡すことで一気に公式値へ到達しています。
| Problem | Official Solutions | Solutions Found | Run Time (sec) | Method / Note |
|---|---|---|---|---|
| redeco8 | 64 | 64 | 0.289 | 総次数ホモトピー。 |
| wright | 32 | 32 | 0.060 | 総次数ホモトピー。 |
| cohn2 | 18 | 18 | 0.799 | 正規化スケーリング+総次数ホモトピー。 |
| des22_24 | 42 | 42 | 11.942 | 10変数のdessin d'enfant系。 |
| fourbar | 36 | 36 | 0.957 | 多斉次ホモトピーによる4節リンク設計。 |
| ku10 | 2 | 2 | 0.013 | 10群の多斉次構造を利用。 |
| rbpl | 40 | 40 | 58.363 | 並列ロボット左手問題。公式40解を捕捉。 |
| rediff3 | 7 | 7 | 0.005 | 反応拡散系を総次数ホモトピーで追跡。 |
| cohn3 | 102 | 102 | 3.801 | 正規化スケーリング+多斉次ホモトピー。 |
| discret3 | 128 | 128 | 5.262 | 係数スケーリング+多斉次ホモトピー。 |
| gaukwa2 | 2 | 2 | 2.979 | 2節点ガウス求積公式。 |
| lorentz | 11 | 11 | 0.039 | 4次元Lorentzアトラクタの平衡点。 |
| rbpl24 | 40 | 40 | 1.255 | 24実解を含む並列ロボット系。 |
| reimer5 | 144 | 144 | 5.848 | 総次数ホモトピー+置換対称性。 |
| comb3000 | 16 | 16 | 1.378 | 3000度の燃焼化学モデル。 |
| eco5 | 8 | 8 | 0.015 | 5次元一般均衡問題。 |
| gaukwa3 | 6 | 6 | 21.232 | 多斉次ホモトピー+置換対称性。 |
| lumped | 4 | 4 | 0.011 | 集中定数化学反応モデル。 |
| rbpl24es | 40 | 40 | 0.600 | スケール化された並列ロボット系。 |
| rose | 136 | 136 | 0.408 | 一般経済均衡モデル。主要コレクションの終着点。 |
5. 45問が残した三つの転換点
探索は、一回で終わらなくてよい
cyclic7は560、658、728、854、そして924解へ進みました。途中結果を失わず、次の探索へ渡す再開機構によって、時間のかかる全解探索を積み上げ可能な工程へ変えました。
式の構造は、計算量そのものである
fbrfive4の非飽和化、des18_3の縮約、kinemaの多斉次分割は、同じ数学的対象でも「どう見せるか」で難易度が変わることを示しました。全解探索はソルバーの性能だけでなく、定式化との共同作業です。
ニュートン探索から経路追跡へ
cohn2、cohn3、discret3を境に、総次数・多斉次ホモトピーが本格的に加わりました。局所的に解へ落ちるだけでなく、構造から生成した始点を連続的に終点まで運ぶ。MAL-Seekerは探索器から、多項式系を解き切るための複合エンジンへ一段進みました。
今回追加した45問題は、すべてPHCpack公式の孤立解数と一致しました。第一報・第二報を合わせ、boonからroseまでの主要80問題に対する最初の一巡が完了しました。ただし、初期の実験記録には未完の結果もそのまま残しています。これは「すべてを完全制覇した」という宣言ではなく、80種類の地形を実際に歩き、次に直すべき場所まで見えたという一区切りです。
6. 解析環境およびエンジン仕様
- 解析エンジン: MAL-Seeker (Project Antares Ver 3.1.6)
- 開発プロジェクト: Project Bellatrix V1.0.4
- 主な探索機構: 5SS / Polynomial Newton / Resume / Symmetry Closure
- 経路追跡: Total-Degree / M-Homogeneous Homotopy
- PC: MacBook Pro (Mac17,2)
- OS: macOS Tahoe 26.4 (Build 25E246)
- CPU: Apple M5, 10-core (4P + 6E), arm64
- メモリ: 32GB
7. 結論 — 完成ではなく、座標を得た
PHCpackの主要80問題は、数値解析、ロボット機構学、化学平衡、経済均衡、求積公式、代数構造まで、まるで異なる世界を一つの多項式系データベースへ押し込んだ地図でした。その端から端まで一度歩いたことで、MAL-Seekerが得意な地形と、まだ装備が不足する地形の輪郭が見えました。
roseへの到達はゴールではありません。公式ページには別枠の新規テスト例や、特異解のデフレーション、代数集合の分解という次の領域が続いています。けれど、ここで一度立ち止まり、主要コレクション一巡の記録を残します。迷宮の出口を見つけたのではなく、ようやく迷宮全体の座標を手に入れたのです。