帯分数の計算コストと
「視点の転換」
なぜエンジニアは数を大きくしたがらないのか。
教科書の「当たり前」を疑う、計算量のアルゴリズム考察。
1. 無意識の「最適化」不足
小学校の算数では、帯分数(Mixed Numbers)の計算について、しばしば次のように教わります。 「一度、仮分数(Improper Fractions)に直してから計算しましょう」
私はこれまで、この教えを特に疑うことなく受け入れてきました。 しかし、ふとエンジニアの視点(計算量やメモリ効率)でこの手順を見直したとき、ある違和感を覚えました。
「これ、計算効率(パフォーマンス)を犠牲にしていないか?」
特に、「分母が異なる(通分が必要な)足し算・引き算」において、その非効率さは顕著になります。
2. ケーススタディ:通分が必要な加算
具体的な例を見てみましょう。以下の計算を考えます。
$$3 \frac{5}{12} + 2 \frac{7}{18}$$
A. 学校推奨:仮分数アプローチ(The "School" Way)
まず帯分数を仮分数に変換し、その後通分して計算します。
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仮分数化(乗算コスト発生):
\(3 \frac{5}{12} \rightarrow \frac{3 \times 12 + 5}{12} = \frac{41}{12}\)
\(2 \frac{7}{18} \rightarrow \frac{2 \times 18 + 7}{18} = \frac{43}{18}\)
(すでに分子が大きくなり始めています) -
通分(最小公倍数 36):
\(\frac{41 \times 3}{36} + \frac{43 \times 2}{36} = \frac{123}{36} + \frac{86}{36}\)
(3桁の数字が登場しました。暗算は困難です) -
加算と帯分数への再変換:
\(\frac{209}{36} \rightarrow 209 \div 36 = 5 \dots 29 \rightarrow \mathbf{5 \frac{29}{36}}\)
評価: 中間値が「123」「86」「209」まで肥大化しました。
B. エンジニア推奨:分割統治アプローチ(The "Engineer" Way)
整数部と分数部を分離(Divide)して計算します。
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分離と通分:
整数部: \(3 + 2 = \mathbf{5}\)
分数部: \(\frac{5}{12} + \frac{7}{18} = \frac{15}{36} + \frac{14}{36}\) -
加算:
分数部: \(\frac{15 + 14}{36} = \frac{29}{36}\) -
結合:
\(\mathbf{5 \frac{29}{36}}\)
評価: 扱う最大値は「36」止まりです。暗算で瞬殺できます。
3. なぜ「仮分数化」が推奨されるのか?
計算効率(Method B)の方が明らかに良いのに、なぜ学校では仮分数化(Method A)を教えるのでしょうか? 教育的な意図は定かではありませんが、おそらく「アルゴリズムの汎用性」を優先しているのではないかと推測されます。
足し算・引き算では分離法が有効ですが、掛け算・割り算(例:\(1 \frac{1}{2} \times 1 \frac{1}{2}\))では、整数部と分数部を分離して計算することはできません。 「すべての四則演算で共通して使える手順」として、仮分数化を基本とすることは、学習上の混乱を避けるという意味で非常に合理的です。
4. Dr.WataWata Insight
もちろん、教科書通りに仮分数で計算することは間違いではありませんし、汎用的な「正攻法」です。 しかし、そこで思考を止めず、「当たり前」を少し疑ってみることも大切です。
エンジニアの世界では、汎用的な手法が必ずしも最適解とは限りません。 時には教科書的な手順から離れ、「視点を変えてみる(整数と小数を分けてみる)」。 そうすることで、無駄な計算が削ぎ落とされ、驚くほど効率的なルートが見つかることがあります。
「当たり前に流されず、状況に応じて視点を切り替える」 この柔軟性こそが、数理的な問題を解く上での最大の武器になるのです。